そんなもんだろう

不意に

過去に押し潰されそうになる


たったひとりで

戦ってたんだ。


味方もいなくて

頼れるひともいなくて


実家を飛び出して

漫画喫茶を転々として


やっと見つけた狭いアパートで

勉強と就活しながら

バイトで必死に食いつないで



思えばそれまでの職業は

本当に安定した職業で


それを捨ててまで


飛び出したかったんだ

あの世界から

あの宗教一色の世界から



放り出されたに近い



腎臓をやられて

周りが期待するような働きが出来なくなり

今までの努力も全て否定され



それの何が「愛」なんだと



理不尽さに苦悩したものだ




それまで

その宗教のホープだったあたしは

腎臓をやられたせいで

まるで虫ケラのように扱われて


やっと

その異質で歪な組織に気付いた



ここは、愛の宗教じゃない

結局は

組織の思い通りに動ける人間が

もてはやされる世界だと





飛び出した狭いアパート

朝から晩までバイト

そして学校と勉強


息抜きにアホみたく遊んで

現実逃避して




絶対見返してやると


死ねと毎日怒鳴られるようなバイトだった



それでも辞めるわけには行かなかった



生きるか死ぬかのレベルだった



味方なんていない


地元のみんなは

どうせ失敗して挫折して

泣きついてくるんだろうと

バカにしていた


今、妹たちが住んでる家の家電から

生活用品すべては

あたしが購入したものだ


それを当たり前に使われて

感謝もされず

 


指さされて笑われてた






孤立無援




必死に勉強した




必死に頭を下げた




そうしてやっと

それなりの職業についた



それからも必死に働いた




とにかく実績を積まなきゃいけない





失敗は許されない

ひとの命がかかる職業だ


少しのミスも許されない




少しのミスで

犯罪者になるような

そんな責任の重い仕事




  


それでもそこには

かつてないやり甲斐があった






何度過労で倒れて救急車で運ばれたことだろう

何度過労で点滴を打ったことだろう





それでも

ただがむしゃらに


あの、漫画喫茶を転々としてた頃よりも

死ね死ねと怒鳴られてバイトしてた頃よりも


精神的には全然つらくなかった




やり甲斐が、そこにはあった






そして、やっと

ボロいながらも

山手線沿線内側にマンションを買った



全部自分の手で成し遂げた



ひとつひとつに愛着がある




安い洗濯機も

小さな冷蔵庫も

ちゃちいコタツ机も

使えないようなテレビも

古臭い炊飯器も

どこのメーカーか分からないレンジも



カーテンも

カーペットも


鍋やフライパンも



噛み合わせの悪い衣装ケースも


ひとつひとつ

自分が必死に働いた金で

揃えてきた物だ





汗と涙の結晶であり

過去との決別を表してもいる






このマンションから見る夜景が

どの夜景よりも

あたしには価値がある






だけど

どうしても時に



過去に押し潰されそうになる






誰よりも頑張った

誰よりも優秀だった

姉や妹がどうしようもない時に

幼い妹の世話や

病弱の母親や

仕事に忙しい父親

何もかも任されて

それを完璧にこなしていた


当たり前にこなしていた




家でも

職場でも

宗教でも


常に完璧だったと自負できる




それがどうだ

腎臓を悪くした途端

あの扱いだ




あたしは一体何だったんだろう


愛を説く世界で

愛という正義のもとに個性を殺され

生き方を奪われ

そして

使い物にならなくなった途端捨てられた




物心ついた時から

その世界しか知らずに育ち

他の世界に触れることさえ禁止され


そして大人になって

裸一貫で放り出された、捨てられた





姉よ、

散々遊んで宗教なんかクソくらえと

親にもみんなにも迷惑をかけ

大人になってから

やっぱり宗教をやりたい、チヤホヤされたいと戻ってきて

健康を武器に宗教内で出世して


真面目に生きてきたあたしを踏み台にした

その世界から見える景色は、さぞ心地よいことでしょう




あなたが散々、親を泣かせた時

あたしがどれだけ親や妹を守ったか

あなたはもう忘れてしまったのでしょう




どのツラさげて

あたしに説教するのですか?



宗教的に見たら

あなたの方が成功しているかもしれません


でも

広い世界、一般的な世界の視点で見た時に

今のあたしは、フリーターのあなたなんか

足蹴にもかけない存在なのです



それでも

あたしにとっては唯一のお姉ちゃんで

お姉ちゃんに好かれたくて

小さい頃から何でも言うこと聞いてきたよね




お姉ちゃん、

何でも言うことを聞いてたあたしは

もういないんだよ。






誰もかも

あたしを思い通りに使えてたかもしれない

でももう

そんなあたしは存在しないんだよ




あたしはもう

今は自分の足で立ってる


味方も頼れるひともいない状況で

歯を食いしばって

ここまできたんだ




きっと

血のつながりはあっても

あなた達には一生理解できない世界でしょう


理解して欲しくもない




その生ぬるい世界で

一生を終えればいい




憎しみはない

悲しみと虚しさだけが

時に心を支配して

途方にくれるんだ





あの頃あたしは

いったい何のために生きていたんだろう






宗教をやらないなら

死んで欲しいと本気で思うような

あの世界で

あの人達は今も愛を説いてる





ごめん、あたしは死なないよ

自分のために

一生懸命生きていくよ